シアン文字=アルテミス 黒文字=ファントム(エリックさん)
赤紫文字=クリスティーヌ
さてさて、ようこそお越し下さいました、クリスティーヌさん。
……ファントムさんから大体の話は聞いてます?
「ええ。エリックが私の歌を保存したい、
そのために依玖重さんとアルテミスちゃんの力を借りる事にした、と」
大筋はそれで合ってます。まずは『自分だけが聴ける』形での録音をやって貰おうと思いまして。
ゆくゆくはインターネット配信も考えてらっしゃるそうですけど、それはクリスティーヌさん的に大丈夫です?
「いんたー、ねっと……?」
「ようは、おねえさんのうたが、せかいのどこからでも、
いつでも、だれでもきけるようになるということです!」
「世界の何処にでも、歌を響かせられるようになるなんて……!
とても素晴らしい試みなのですね!」
アルテミスよ……その説明は間違っちゃいないけど語弊がだな……
「どうした、依玖重。浮かない顔をしているな」
いや……アルテミスの言ってる事も間違っちゃいないんだよ……いないんだけどさ……
それが言えたのは2000年代前半の『インターネット黎明期』だけなんだよ……
確かに便宜上そう言っといた方がやりやすいっちゃやりやすいし、今クリスティーヌさんが顔を輝かせてるのは、間違いなく黎明期にみんなが抱いてた『希望』そのものなんだけど、今現在じゃネット配信にはそれ相応のリスクもあるんだからな……
それを知らないお前じゃなかろうに……
ああ、もう、どうしよう。説明すべきかせざるべきか。
「その話は、後で私が聞いてやる。今は、歌の録音に集中しよう」
……すんません、了解です。 意外と優しいなファントムさん……
スピーカーが音の出口なら、マイクは入口
さて、前回は機器接続用の『オーディオインターフェース』の話で1本終わっちゃったんで、今回はいよいよ直接的な音の入口になる『マイク』の話をしますね。実地訓練付きで。
「はい、宜しくお願いいたします」
「なるほど。『音を電気信号に変える』事で、アルテミスの中の回路に音の情報を持っていく形になるのだな」
ですです。実際はマイクで入力できる電気信号って物凄く小さいんで、間に増幅器を挟んで信号を大きくする、という行程を取ります。
その増幅器が『マイクプリアンプ』です。『マイクアンプ』『ヘッドアンプ』と呼ばれる物は大抵コレを指してます。
こんな感じで単体で増設できる物もありますよ。
ぶっちゃけ、下位モデルのAE-7買ってたら私も増設の憂き目に遭ってたんだよな……
「だいたい、ファンタム電源もセットでついてくるですよ」
「ひとつ聞くが、その私と同じ名前の電源は、一体何のために使うんだ?
マイク専用の電源……というのは何となく解ったが、依玖重が通常使っている小型マイクは、携帯端末に繋ぐだけで作動しているように見える。
何か構造上の違いがあるのか?」
「そのとおりです! マイクはおおきくわけて、
電気のいらない『ダイナミック』タイプと
電気をつかう『コンデンサー』タイプがあります。
そのなかでも、コンデンサーマイクは、
ファンタム電源の大電圧がひつような『DCバイアス方式』と
ミニプラグからのすくない電気でもつかえる『エレクトレット方式』にわかれます。
ますた様がつかってるようなマイクは
『エレクトレット・コンデンサーマイク』とよばれますね」
「なるほど。『音を物理で直接電気信号に変える』のがダイナミック型、
『音を電圧の変化に変えて電気信号を作る』のがコンデンサー型、というわけか。
ということは、電源の要不要以外にも、特性的にもかなり違いがありそうだな?」
「おにーさん、のみこみがめっちゃくちゃはやいデース……
わたし、いらないんじゃないでしょーか……」
まあまあ、しょげるなアルテミス。その分私黙ってっから。
環境に合ったマイクを選ぼう -ダイナミックとコンデンサー-
○電源が要らない
○6.35mmジャック・または3.5mmミニピンジャックで接続
○感度はコンデンサータイプに比べると低い 中~低音域・大音量に強い
○比較的丈夫 衝撃にも湿気にもそこそこ強い
○風圧に強い
<ポッドキャスト向けの利点>
○環境ノイズ(特に空調)を拾いにくい
○要電源
(プラグ接続/USB給電/ファンタム電源)
○6.35mm・3.5mmジャックの他、
キャノンケーブル(XLRケーブル/ファンタム電源用)で接続する
USBマイクも内部構造はエレクトレット・コンデンサー方式なので
ここに分類される
○感度が高くレンジの広い音を拾える(エレクトレット方式<DCバイアス方式)
○伸びきる高音域の繊細な音に強い
○衝撃厳禁 湿気厳禁 風圧にも弱い(DCバイアス方式は更に弱い)
<ポッドキャスト向けの利点>
○USBマイクなら導入は比較的容易
○声が小さくても綺麗に拾ってくれる
「私の場合は、どのようなマイクが良いのかしら……」
んー、クリスティーヌさんの場合、高音域が綺麗に録れるコンデンサーマイクの方がいいのかな、と思うんですけど、元々がオペラ歌手だからかなり声量ありますもんね。
ダイナミックマイクから試してみましょっか。何本かのマイクで試し録りしてみて、御自身に合う物を見つけると良いですよ。
○ダイナミックマイク=カラオケ・ステージライブ向き
○コンデンサーマイク=一般録音放送・音声チャット・スタジオレコーディング向け
「依玖重。『環境ノイズ』とは何だ?」
要は『生活音』の事ですな。
家の中だと扇風機やエアコンなどの空調機器。家人が立てる足音や物音。
屋外だと他人の話し声や道路を走る車の音、雨や風の音といったものです。
実はコンデンサーマイクの利点はそのままデメリットとしても跳ね返ってきまして、
繊細な分、空調の作動音や不意の机の振動など、細かい音まで拾ってしまいやすいのです。
マイクは、マイクと音源の間の距離が広がれば広がるほど感度が落ちるんですが、
コンデンサーマイクが『距離に比例して落ちる』のに対して、
ダイナミックマイクは『距離の2乗に比例して落ちる』ので、
結果としてダイナミックマイクの方が離れた音源からの音を拾わないんです。
――なので、そういうお家では、ダイナミックマイクを使ってる人も結構居ますよ。
勿論、収録場所を変えるという手段もあります。
「事はなかなか単純ではないのだな……」
夏は自殺行為ですからね。エアコンなしとか。
それと、価格帯はどちらも性能によりピンキリですけど、
価格帯性能比では比較的ダイナミックマイクのほうが安い傾向はあります。
だから、マイクジャックがあるならUSBマイクと並行して検討しても面白いと思いますよ。
無論、前回も言ったとおり、ジャックがない場合はオーディオインターフェースの導入が不可欠になってしまうので、その分の出費も考慮する必要が出てくるけど。
マイクの形状と『指向性』のお話
「ところで依玖重、もうひとつ聞きたい。
このページを見てもそうだが、ダイナミック型に比べて、
コンデンサー型はかなりいろんな形状のものがないか?」
ありますねw 私の使ってるこの『ラベリアマイク』もそうですけど、スピーカーと一体になった『スピーカーフォン』やヘッドホン一体型の『ヘッドセット』という物もあります。
コンデンサーマイクはその構造上、ダイアフラムが小さくて済むので小型化しやすいのです。
「それと、マイクのかたちもだいじですけど、
いちばんだいじなのは、『指向性』です。
つかいかたやこえにあわせた指向性をえらんでつかえば、もっときれいにとれるですよ」
「『指向性』?」
「はい。『どの角度から音を拾えるか』というのをあらわすことばです。
これもいろいろしゅるいがあるので、かたちといっしょにせつめいしますね」
○マイクの置かれた空間に対し、360度全ての角度からの音を拾う。
○近接効果(マイクの近くで喋ると低音がブーストされる現象)が起きにくい。
○吹かれに強い。
○コンデンサマイクの場合、かなり広い範囲の音を拾ってしまいやすい。
このため、S/N比(信号対雑音比)の多い部屋ではノイズ対策が必要になる。
○割といろいろこなせる。空間全体の録音・インタビュー・チャット、何でもござれ。
○マイクの真正面からの音を一番拾う。
ただし、後ろからの音声も全く拾わない、というわけではない。
○近接効果が起きやすいのでそれを意識した位置取りが必要。
○マイクの後ろ側に手をかけて使うと、無指向性に似た指向特性になる。
この使い方はハウリングが起きやすいので要注意。
○ボーカル用マイクは大部分がコレ。
○『単一指向性』を前方に更に鋭くしたもの。
○若干横方面からの音も拾う『干渉管型』と、
前方以外の音を拾わない『二次音圧傾度型』の2パターンがある。
○スーパー→ハイパー→ウルトラ→ショットガンの順で指向性がより鋭くなる。
○非常に前方遠くの音まで拾いやすい。
○主にビデオ・テレビカメラ用の『ガンマイク』で使われる。
○マイクの前方と後方、それぞれの音を拾いやすいように設計されたもの。
○音源の位置で周波数特性が著しく変わる。
○音声入力用のマイクや音声オペレーションなどでよく使われる。
○2人で机を挟んでの対談収録には非常に便利。
「かたちについては、こちらをどうぞー」
○襟元にクリップで留めて使うタイプのマイク。
『人間の声』専用と言っても過言ではない。
○音源(口元)との距離を一定に保ちやすい。
○ラベリアマイクはピンマイクに比べて
ダイアフラムが大きく、より音を拾いやすい。
○基本は無指向性。たまに単一指向性のものもある。
○安価。安いと1000円から手に入る。ただし性能はお察し
○みんなが一番思い浮かべるあの形。手で持って使う事を想定したもの。
○手元でON/OFFを切り替えられるスイッチのついた物が多い。
○指向性は機種によって様々。ボーカル用は殆ど単一指向性。
物によっては指向性を切り替えられる『可変指向性』のモデルもある。
○値段はピンキリ。
○頭に付けて固定するタイプのマイクセット。
○両手や身体の動きが自由になるのが大きな強み。
○音源(口元)との距離を一定に保ちやすい。
○耳などにかけて頭で固定する物が『ヘッドウォーン』、
ヘッドホンとマイクがセットになった物が『ヘッドセット』。
○近年Amazon等で目に付く『ゲーム用ヘッドセット』は
主に再生性能の方に重点が置かれているため、マイクの性能がお察し。
マイク側にもある程度の質を求めるならかなりの出費が要る。
○SkypeやAnchorなどのアプリ通信収録の際、
ヘッドホンから漏れた音を拾ってしまいやすい。
○放送用グレードのヘッドセットは音質も良いが、ドチャクソ高い。
○無指向性・または単一指向性。
○近年、USBマイクを中心に増えている形状。
スタンドが付いていて、机に置いて固定できるようになっている形のもの。
○感度の良いコンデンサマイクの場合、机の振動なども拾ってしまいやすい。
○両手が自由になるため、キーボードを打ちながらの作業や
原稿を持ちながらのスピーチ・ビデオチャットなどに適する。
○無指向性・単一指向性・双指向性の3つを可変できるモデルが増えている。
可変指向性が付いてないモデルは、単一指向性が多い。
○『スピーカーフォン』と呼ばれるのはだいたいコレ。
○平べったいドーム型の形状をしていて、視界に入りにくい造りになっている。
○テレビニュースなどの収録や、会議・公演に使われている。
コロナ渦でテレワークが増えた現在では、ビデオチャット用にも。
○無指向性。
○右側と左側にそれぞれ単一指向性のユニットを仕込んだもの。
○ホールでのクラシック演奏の収録や、
狭いスタジオでのバンドリハーサル収録などに使われる。
○近年は『マルチ・マイク・システム』に取って代わられつつある。
○円筒型の細長いマイク。
指向性の『スーパー・カーディオイド』の項で出てきた
『ガンマイク』もこの仲間。
○音楽用はダイアフラム罫が小さく、耐音圧が高く高音域に強い物が多い。
○アコースティックギターや弦楽器・ドラム・シンバルなど、
『立ち上がりの音が鋭い楽器』に向く。
耐音圧の高さを活かし、
『楽器に思いっきり近づけて録る』というやり方も可能。
○ガンマイクは動画撮影の際、
『狙った方向の音をピンポイント、かつクリアに録りたい』という際に使う。
○単一指向性・無指向性・または超指向性。
単一指向性と無指向性を切り替えて使えるモデルもある。
○スタジオや舞台などで空間録音に使う
『マルチ・マイク・システム』にも据え置きマイクとして使われる。
そして、これをポッドキャスト用途メインでまとめると……
○卓上型(USBマイク全般)
○安価で導入がしやすい。
○USB端子に挿せば良いだけなので扱いが簡単。
○オーディオインターフェース不要。
○可変指向性対応モデルならいろんなシチュエーションで使い回せる。
○スマホ・タブレットでも使用可能。
×構造上、コンデンサーマイクのみ。
×感度が良すぎると机の振動や周囲の微細な物音まで拾ってしまいやすい。
マイクアームなどを上手く使って配置を工夫しよう。
○ハンドマイク
○音質に関してはコレ。一番豊かな特性の中か選べる。
○ダイナミックマイクを使う際はこの形状一択。
○可変指向性対応モデルならいろんなシチュエーションで使い回せる。
×コンデンサーマイクの上位モデルは、要ファンタム電源。
×ファンタム電源を使いたいなら、
オーディオインターフェースにもそれなりの初期投資が必要。
×感度が良すぎると机の振動や周囲の微細な物音まで拾ってしまいやすい。
コンデンサーマイクなら配置を工夫。
ダイナミックマイクはある程度自己解決可能。
○ヘッドセット(USBヘッドセット含)
○安価で導入がしやすい。
○マイク端子・またはUSB端子に挿せば良いだけなので扱いが簡単。
○USB接続型はオーディオインターフェース不要。
○声をモニタリングしながら録音ができる。
×マイクの音質は、マイク単体に比べるとかなりお察しレベル。
×チャットソフトや配信アプリなどで通信録音を行う場合、
ヘッドホンから漏れた音声を拾ってしまいやすい。
○ピンマイク・ラベリアマイク
○安価で導入がしやすい。
○マイク自体が小型、かつマイク端子に挿すだけで良いので非常に扱いやすい。
○パソコンだろうがスマホだろうがお構いなしに使える。
○襟元に付けるだけなの非常に使いやすい。出歩きながらの収録も可能。
○最近ではBluetooth接続のモデルも出ている。
ただし、『データを再圧縮してやり取りする』Bluetooth接続の構造上、
普通のアナログマイクより音質は劣化しやすい。
×最終的な性能はハンドマイクや卓上型マイクに劣る。
×特殊用途モデルにはダイナミックマイクもあるが、基本コンデンサーマイク。
導入のしやすさと質を考えると、こんなところかなって思う。
それに、iPhoneなら付属のイヤホンマイクもなかなか性能良いし、FPSゲーマーだったらボイスチャット用にヘッドセット持ってる人も多いだろうから、まずは『手持ちの機材』でやってみて、『これなら続けられそうだな』って思ったときに、始めて本格的な機材の導入を考えるといいよ。
元々『iPhoneひとつで手軽にラジオ配信』というコンセプトから生まれたのが、ポッドキャストだから。
USBマイクなどに関しては、結構いろんな人がYoutubeに聞き比べ動画を上げてたりするから、そういうのも参考にしていくと良いと思うな。
「依玖重さん……エリックが頭を抱えて完全に固まってます……
一気に色々詰め込みすぎなのでは……」
「色々識れば識るほど、
どれを選べば良いのか分からなくなってきたぞ……!」
基本、マイクは用途で使い分けるもんですし、音の特性も違いますから、
一概に『コレが正解』とは言えないのですよね。
だから、『いろいろ触って自分に合う物を見つける』のが大事なのですヨ。
これ以外にもマイク関係の用語は細かい所まで詰めるとまだまだ沢山ありますけど、
今回はこの辺までにしておきましょうかね。Podcastメインだとあまり関係ないし。
近いうちに、楽器店に行って実機漁りに行ってみましょ。
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